ル・コルビジェにとって建築の原点とは、ギリシャのパルテノンで見た幾何学そして比例の美しさであったといわれている。コルビジェは人体の寸法による比例と黄金比、そして幾何学をもとに独自の尺度としてモデュロールをつくり、それを建築のプロポーションとすることを提唱している。一般的にモデュロールの思想が最も具現化されているのが、マルセイユのユニテダビダシオンで、337戸からなる集合住宅(すべてメゾネット形式)で、幾何学の構成美によって複雑に組み合わされている。コルビジェの自書”モデュロール”(1950)に書かれているように、その建築のプロポーションにはモデュロールが使われ、立面・平面・断面のすべての基本となる柱においても、幾何学的寸法からはずれることはなかったという。
コルビジェのモデュロールは、建築のあらゆる要素を決定するのに、人間の身体尺度を用いているが、現代の建築尺度はセンチ・メートルである。しかし、幾何学による比例の美学は、現代の尺度にも存在していることは確かである。
今回のプロジェクトにおいて、建築のプロポーションを決定する要因のひとつに、比例の美学を取り入れた。
”建築とは比例である”と唱えた、コルビジェの思想が反映されているのではないかと思う。 |
今回のプロジェクトのコンセプトは、光と風である。光や風は季節を感じることができ、人の五感(目、鼻、耳、舌、皮膚)に心地いい空気を感じさせてくれるものである。そのような時間の移り変わりと、人間的な感覚をもっとも建築的言語に変換してくれるものが”白”、そして”白い立方体(ボリューム)”ではないかと思う。
時間軸を含んだ光や風が、建築的操作によってより鮮明にその姿を現わしたのではないかと思う。その”白”の壁面に凹凸のあるテクスチャーを与え、そこに影を落とすことで、光は輝きを得る。インターナショナルスタイルの造形表現に基づいた白い立方体は、建物のエッジをきかすことで、自らの存在を際立たせる。そうして空と切り取られた白い立方体は、光や風をもっとも印象的に映し出す装置となりえるだろう。時間軸を含んだ光や風が、建築的操作によってより鮮明にその姿を現わしたのではないかと思う。
アメリカの建築家リチャード・マイヤーは、白い仕上げが特徴で、コルビジェの原則を受け継ぐ新モダニストとして位置づけられている。彼の言葉を借りるならば、”白は自然光の変化、季節の変化、そして建築理念を最もよく映し出す”そうだ。
”純粋なる白”そして”白い立方体”は、感動を与えるという使命をもった建築にふさわしい選択ではなかったかと思う。 |